管理業務主任者 過去問
令和5年度(2023年)
問29

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問題

管理業務主任者試験 令和5年度(2023年) 問29 (訂正依頼・報告はこちら)

甲マンションの住戸101号室をA、B、Cの3人が共有し、住戸102号室を所有者に無断でDが占有している場合に関する次の記述のうち、民法、区分所有法及び判例によれば、最も適切なものはどれか。
  • A、B、Cは、共有する区分所有権について5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をしていた場合であっても、いつでも101号室の区分所有権の分割を請求することができる。
  • 101号室の区分所有権について、Aが分割を請求した場合、A、B、Cの協議が調(ととの)わないときは、裁判上の現物分割はできずに競売による方法しか認められない。
  • Dは、102号室の専有部分の区分所有権について時効によって取得した場合でも、共用部分の共有持分については、時効により取得することはできない。
  • 102号室について、Dは、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定される。

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この過去問の解説 (2件)

01

民法の共有に関する問題です。

登場人物が多いため、状況を図などでイメージするのが良いでしょう。

選択肢1. A、B、Cは、共有する区分所有権について5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をしていた場合であっても、いつでも101号室の区分所有権の分割を請求することができる。

不適切

 

各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができます。ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げません(民法256条1項)。

したがって、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をしていた場合は、その期間内は分割を請求することはできません。

選択肢2. 101号室の区分所有権について、Aが分割を請求した場合、A、B、Cの協議が調(ととの)わないときは、裁判上の現物分割はできずに競売による方法しか認められない。

不適切

共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができます(民法258条1項)。

そして裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができます(同条2項)。
共有物の現物を分割する方法
②共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法

これらの方法により共有物を分割することができないときは、裁判所はその競売を命ずることができます(同条3項)。

 

したがって、競売の他に現物分割の方法をとることもできます。

選択肢3. Dは、102号室の専有部分の区分所有権について時効によって取得した場合でも、共用部分の共有持分については、時効により取得することはできない。

不適切

 

共有者の持分は、その有する専有部分の処分に従います(区分所有法15条1項)。

したがって、専有部分を時効により取得した場合、共用部分の共有部分について時効により取得することは可能です。

選択肢4. 102号室について、Dは、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定される。

適切

 

占有者であるDは、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定されます

まとめ

本選択肢内に推定される、とありますが、みなすとの違いを意識して覚えるようにしましょう。

 

みなす:事実が確定され、反証が認められません。

推定する:反証がない限り事実があったものとして取り扱います

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02

本問は、共有に係る専有部分の共有物分割請求及び専有部分の時効取得に関する問題です。
選択肢のすべてについて正誤を正しく判断するのは結構難しいのですが、正解肢が明らかに正しいと判断できるので他がよく判らなくても正解すること自体はそれほど困難ではありません。

選択肢1. A、B、Cは、共有する区分所有権について5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をしていた場合であっても、いつでも101号室の区分所有権の分割を請求することができる。

「最も適切」ではありません。

 

それはそうでしょう。
不分割契約があるのにいつでも分割請求できるならば何のための不分割契約ですか?という話です。

 

民法第256条第1項「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。」

 

原則はいつでも分割請求ができるが、5年以内の不分割契約は有効だと言っています。
元々、民法的には、共有は例外で望ましくないという発想があるので、分割により共有関係を解消することは望ましいわけです。しかしそうは言っても分割をしないという当事者の意思をまったく無視することはできませんから、5年くらいならいいだろうとう趣旨の規定です。

なお、5年以内の期間で更新することも可能です(同条第2項)。実質的に言えば、5年以上の間、不分割契約を継続したいなら5年ごとに見直せば可能だということです。
ちなみに、5年を超える期間の不分割特約がどうなるかと言えば、5年を超える部分が無効になるだけで、5年を限度として有効です。


参考
同様の規定が相続にもあります。
相続において被相続人が遺言で分割を禁止する場合は最長5年で、被相続人は死んでいるので更新はあり得ません。
共同相続人が協議して不分割契約をする場合も最長5年ですが、更新は可能です。ただし相続開始の時を起算点として10年以内です(例えば3年の不分割契約を締結して2年間の更新を3回行うということも可能です)。
更に家庭裁判所が分割禁止の審判をすることも可能です。これは最長5年です。更新は可能ですが相続開始の時を起算点として10年以内が限度です。

 

民法第908条「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
2 共同相続人は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
3 前項の契約は、五年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
4 前条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
5 家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。」

選択肢2. 101号室の区分所有権について、Aが分割を請求した場合、A、B、Cの協議が調(ととの)わないときは、裁判上の現物分割はできずに競売による方法しか認められない。

「最も適切」ではありません。

 

区分所有建物を物理的に分割することは通常は不可能ですので現物分割ができないのは確かではあります。
しかし、競売により売却してその売却代金を分割する方法(代価分割又は換価分割)以外にも、共有者の一部に区分所有建物を取得させた上で、共有関係から離脱する共有者に対して相当の償金を支払うという「全面的価格賠償(*)(代償分割)」が使えます。

 

民法第258条「(第1項略)
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
(第4項略)

 

第2項第1号が「現物分割」第2号が「全面的価格賠償」第3項が「代価分割」です。

この規定は令和3年改正による比較的新しい話です。
平成8年の最高裁判例以来の判例法理を四半世紀経って明文化したものです。

現行法では裁判上の共有物の分割方法として、「現物分割」と「全面的価格賠償」があり、次善の方法として代価分割があるということになります。


(*)全面的価格賠償
少し面倒な話なので読み物程度に流してください。
「全面的」と付いているのは、一部の共有者は完全に共有物の持分権を失って金銭だけを手にするという程度の意味です。
これに対して部分的価格賠償というのは、あくまで物理的な分割である現物分割により各持分権者が取得する現物がどうしても持分できれいに割れないことがあるためにその差額を金銭で調整することです。
現物分割による部分的価格賠償を突き詰めると実際の現物の取得分が0になってすべて金銭となる全面的価格賠償に行きつくのか、そもそも現物分割は現物を必ず一部は取得して決して0にはならない場合であり、全面的価格賠償は部分的価格賠償の極致ではないと考えるかは難しいところです。
そこに首を突っ込んでも仕方がないのでその辺は学者の先生方にお任せしましょう。

選択肢3. Dは、102号室の専有部分の区分所有権について時効によって取得した場合でも、共用部分の共有持分については、時効により取得することはできない。

「最も適切」ではありません。
 

区分所有建物は専有部分と共有部分の共有持分とを分離して処分することができません。そのため、専有部分を時効取得した場合、共有部分についても時効取得することになります。

 

区分所有法第15条「共有者の持分は、その有する専有部分の処分に従う。
2 共有者は、この法律に別段の定めがある場合を除いて、その有する専有部分と分離して持分を処分することができない。」

 

厳密な話をすると、時効取得は法定の原始取得(*)事由であり、専有部分の区分所有者による「処分」とは違います。しかし、所有者の処分による権利移転(承継取得)と実質には違いがないので、時効による専有部分の所有権の取得の場合も同条を類推適用して共用部分の持分にも効力が及ぶと解するのが妥当です。

 

(*)原始取得

原始取得とは、承継取得でない場合のことです。
承継取得とは、何らかの権利が他の人に移転することを言います。つまり、権利移転による取得が承継取得です。
承継取得でないというのはつまり、誰かから権利が移転してきたのではなく、他人は無関係にいきなりその人が権利を取得したということです。これを原始取得と言います。
理論的には、権利を時効取得した者がある場合、前主が権利を失うのは、時効取得者が権利を原始取得した結果として、この権利と両立しない前主の権利は法理論的に消滅せざるを得ないからです。これを、前主が権利を失うのは、時効取得の反射的効果であると言います。


ちなみに、逆の場合、つまり共用部分を時効取得すると専有部分に効力が及ぶのか?という話をすると、そもそも共用部分はそれ自体を時効取得することはできないとした裁判例があります。

選択肢4. 102号室について、Dは、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定される。

「最も適切」です。よってこの肢が正解です。

 

取得時効における物の占有者は、所有の意思をもって善意平穏にかつ公然と占有することが推定(*)されます。

 

民法第186条第1項「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。」

 

通常の占有はだいたいの場合、所有の意思があって、他人の物だとは思っていなくて、誰かとの間に占有に関して争いもなくて、周りから見ても占有していることがはっきり判るものです。
つまり普通はそうだよね?というその状態をそのまま法律的にも推定しているだけです。

 

ちなみに、所有の意思は占有の権原(*)の性質によって客観的に決まるというのが判例です。例えば占有権原が賃貸借契約である場合には賃借人に所有する意思などあるはずがないのが通常なので、他主占有(自分の物としての占有ではないという程度の意味)として所有の意思がないと認定されます。
これを否定するには、賃借人が賃貸人に対してこれは俺の物だから賃料は払わないと堂々と宣言して実際に支払いをしなかったとかそんな事実があったことが必要です。これにより、他主占有が自主占有(自分の物としての占有)に転換します。

 

(*)推定ですから、実際の訴訟になった場合には、そうでないという主張をして、立証により覆すことができます。
取得時効の完成を否定する当事者が主張をしなければ、また、主張したとしても立証できなければ、推定通りの事実認定になるというだけの話です(本人訴訟でよほどうかつな人でもない限り普通はないのですが、取得時効の完成を主張する側が下手を打って推定通りでないことを自白してしまったりした場合も推定が覆ります)。
法律の規定に「推定する」とあるのですから、これは「法律上の推定」です。
経験則的に推定が働く事実上の推定というものもあります。
この点、主張も立証も認めない「みなす」とは違います。みなすは「法律上の擬制」であり、条文の根拠が必要です。「事実上の擬制」というものはありません。

 

(*)権原とは、簡単に言えば法律上の正当化の根拠となる権利のことです。
権限とは違います。権限とは法律上の権能のことで権限を正当化するのが権原であると思っておけばだいたい合っています。

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