管理業務主任者 過去問
令和5年度(2023年)
問2

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問題

管理業務主任者試験 令和5年度(2023年) 問2 (訂正依頼・報告はこちら)

制限行為能力者であるAは、甲マンションの一住戸を所有し、同住戸に居住している。
この場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、最も不適切なものはどれか。
  • Aが成年被後見人である場合は、Aの後見人がAを代理して当該住戸の区分所有権を売却するためには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
  • Aが成年被後見人である場合は、Aは、あらかじめその後見人の同意を得ることにより、第三者との間で、当該住戸のリフォーム工事に係る契約を有効に締結することができる。
  • Aが被保佐人である場合は、家庭裁判所は、Aの請求により、Aのために当該住戸の区分所有権の売却についてAの保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
  • Aが被補助人である場合は、家庭裁判所が、Aの補助人の請求により、Aが当該住戸の区分所有権を売却することについてAの補助人の同意を得なければならない旨の審判をするためには、Aの同意が必要である。

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この過去問の解説 (2件)

01

制限行為能力者に関する問題です。

制限行為能力者の種類と保護者の権限を確認しましょう。

選択肢1. Aが成年被後見人である場合は、Aの後見人がAを代理して当該住戸の区分所有権を売却するためには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

適切

 

成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。

したがって、成年被後見人であるAの後見人が、Aが所有している住戸の区分所有権を売却するには、家庭裁判所の許可を得なければならなりません。

選択肢2. Aが成年被後見人である場合は、Aは、あらかじめその後見人の同意を得ることにより、第三者との間で、当該住戸のリフォーム工事に係る契約を有効に締結することができる。

不適切

 

成年後見人は、保佐人や補助人とは異なり同意権がありません

したがって、Aは第三者との間でリフォーム工事に係る契約を有効に締結することができません。

選択肢3. Aが被保佐人である場合は、家庭裁判所は、Aの請求により、Aのために当該住戸の区分所有権の売却についてAの保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

適切

 

家庭裁判所は、本人からの請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます(民法876条の4)。

したがって、Aが所有している住戸の区分所有権の売却について、家庭裁判所はA本人の請求により、Aの保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます。

選択肢4. Aが被補助人である場合は、家庭裁判所が、Aの補助人の請求により、Aが当該住戸の区分所有権を売却することについてAの補助人の同意を得なければならない旨の審判をするためには、Aの同意が必要である。

適切

 

家庭裁判所は、補助人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができます(民法17条1項)。

この場合、本人以外の者の請求により審判をするには、本人の同意がなければなりません(同条2項)。

したがって、Aの補助人により、Aの補助人の同意を得なければならない旨の審判をするためには、Aの同意が必要です。

まとめ

制限行為能力者には未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の4種類があります。

それぞれについての違いを、この問題を通して比較しながら理解するようにしましょう。

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02

本問は、制限行為能力者の「居住用の不動産」に関する処分その他の契約にまつわる制限行為能力の類型ごとの違いの比較問題です。

復習もかねて制限行為能力者の行為の効果について簡単にまとめておきます。


制限行為能力者には4つの類型があります。すなわち、①未成年者②成年被後見人③被保佐人④被補助人です。

なお、未成年後見と成年後見はまったく別ものです。未成年後見は未成年者の親権者がいないか又は親権の一内容である管理権について制限を受けている場合に選任されます。つまり、親権者の代わりであって、未成年者自身の行為能力について何か違いがあるわけではありません。

 

①未成年者
法定代理人(=親権者又は未成年後見人)の同意を得ない法律行為は原則として取り消すことができます
例外は、
(1)単に権利を得、又は義務を免れる行為
(2)法定代理人が目的を定めて処分を許した財産についてはその範囲内での処分又は目的を定めないで処分を許した財産の処分
(3)営業の許可を受けた場合の当該営業に関する行為
(4)取り消し得る行為の取消し
です。

 

民法第5条「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
(第2項略)
3 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。」

 

民法第6条「一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。」

 

未成年者の規定は年齢でひとくくりにした形式的な制限であり、実際の判断力を考慮した他の制限行為能力者とは異質なので、別枠で憶えた方がいいと思います。

 

②成年被後見人
日常生活に関する法律行為以外はすべて取り消すことができます。
言い換えれば、原則は取り消すことができるが、例外的に取り消せないことがあります。

 

民法第9条「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」

 

原則取り消すことができ、例外的にできないという点では未成年者と同じです。ただし決定的な違いとして、成年被後見人では代理が必要でありたとえ後見人の同意があっても取り消しうるが、未成年者は代理だけではなく同意を得れば本人が有効に法律行為を行うことができるという点があります。

 

民法第5条第1項本文「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。」

 

成年被後見人は「そもそも判断力がない」という前提であるのに対して、未成年者は「判断力が未熟なだけ」という前提になっています。

成年被後見人は、「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」であることが要件です(民法第7条)
まともな判断力がなければ同意を得ても同意に従って法律行為を行うことが期待できません。意思無能力者の行為と実質的に変わらりません。
しかし、判断力が未熟なだけであれば、同意に従った行為くらいはできます。

 

③被保佐人
基本として民法第13条第1項各号の行為「すべて」及び同条第2項本文に基づいて審判で定められた行為について保佐人の同意がなければ取り消すことができます

言い換えれば、原則は取り消すことができないが、例外的に民法第13条第1項各号の行為の「すべて」及び同条第2項本文に基づいて審判で定められた行為は取り消すことができます。

 

民法第13条「被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(略)第2条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
2 家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
(第3項及び第4項略)」

 

被保佐人は、成年被後見人と違って、基本的には自分で何とかできます。
ただ、ちょっと判断力に問題があるので、一定の重要な行為については同意を要するとなっているだけです。
そのため、保佐人には原則として代理権がありません。あくまでも基本は本人がやるのです。審判で付与することができる代理権はあくまでも例外です。

 

民法第876条の4「家庭裁判所は、(略)被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
2 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。

 

本人の同意が必要というのは憶えておきましょう。

 

④被補助人
被補助人は被保佐人よりもさらに自分でやれる人です。
ですから、民法第13条第1項各号の行為の内、審判で定めた行為について「のみ」補助人の同意がなければ取り消すことができます
被保佐人同様に、原則は取り消すことができないが、被保佐人が取り消すことができる行為のうちの「一部」だけは取り消すことができるということです。


ちなみに補助開始の審判において、第13条第1項各号の「すべて」について補助人の同意を要するとすることはできません。そうしたければ補助ではなく保佐開始の審判をしなければなりません。

 

民法第17条第「家庭裁判所は、(略)被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第13条第1項に規定する行為の一部に限る
2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。
(第3項略)」

 

また、被保佐人と異なり、第13条第1項各号「以外の」行為について同意を要する旨の審判もできません(それを認める規定がありません)。

更に、被補助人は、自力で法律行為ができる範囲がかなり広いので、そもそも補助開始の審判自体も、本人の請求又は本人の同意が必要になります。本人の意思を無視して審判はできないということです。

なお、補助人にも特定の法律行為について代理権を付与することができるのは保佐人と同じです。

 

民法第876条の9第1項「家庭裁判所は、第15条第1項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって、被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。」

 

ちなみに、この審判をするには本人の同意が必要です。民法第876条の9第2項で被保佐人の規定を準用しています。そもそも補助の審判自体に本人の同意が必要なのでその拡張である補助人への代理権付与の審判に本人の同意が必要なのは当然と言えば当然です。


以上、大雑把に言えば、取り消せるのが原則なのか例外なのかが成年被後見人と被保佐人又は被補助人の違いです。
言い換えれば、行為能力が基本的にはないのが成年被後見人、基本的にはあるのが被保佐人又は被補助人と思って構いません。

そして、取り消す行為が民法第13条第1項各号の行為すべてか一部だけか(被保佐人についてはさらに追加が可能)が被保佐人と被補助人の違いです。
例外として行為能力が制限される範囲によって区別されるわけです。

選択肢1. Aが成年被後見人である場合は、Aの後見人がAを代理して当該住戸の区分所有権を売却するためには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

「最も不適切」ではありません。

 

通常の場合は、成年後見人は、成年被後見人の法律行為一般について代理権を有します。
しかし、一部の行為については、成年被後見人の利益を保護するために、家庭裁判所の許可を必要とします(代理権の範囲内ですが行使に条件があるということです)。
そして、成年被後見人の居住用不動産について、売却、賃貸、賃貸借の解除などの処分、平たく言えば、成年後見人の住む場所を決めたり、又は今住んでいるところに住めなくなるかもしれないような処分をしたりするには、家庭裁判所の許可が必要です。
成年被後見人の生活に多大な影響があるので、手続きを厳格にしています。

 

民法第859条の3「成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」

選択肢2. Aが成年被後見人である場合は、Aは、あらかじめその後見人の同意を得ることにより、第三者との間で、当該住戸のリフォーム工事に係る契約を有効に締結することができる。

「最も不適切」です。よってこの肢が正解です。

 

成年被後見人が行為はたとえあらかじめ成年後見人の同意を得ていたとしても取り消すことができます

 

民法第9条「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」

 

ただし書以外に取り消すことができる法律行為に制限はありません。

 

成年被後見人に対する成年後見人の「同意」は無意味です。
冒頭の解説で、成年被後見人には基本的に行為能力がないと言いましたが、それは、成年被後見人は類型的に事理弁識能力がない(完全にないというわけではありませんが)ものとして扱われているからで、同意を得ても事理弁識能力の欠缺を補うことはできません。
同意内容に従った行為を期待できないのです。

 

仮にリフォーム工事に同意をしても、その内容について業者に言いくるめられて過剰に高額な工事を契約させられるかもしれません。
成年被後見人でなくても判断力の落ちた高齢者が、リフォーム詐欺に引っ掛かることが社会問題になっているくらいです。
まして、事理弁識能力がない、ぶっちゃけて言えば判断力がないことが「常況」の成年被後見人に契約交渉をさせることはできません。
成年後見人が内容を全部精査して契約するなら、同意ではなく成年後見人自身が法定代理人として契約すれば良いですし、そうすべきです。

選択肢3. Aが被保佐人である場合は、家庭裁判所は、Aの請求により、Aのために当該住戸の区分所有権の売却についてAの保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

「最も不適切」ではありません。

 

被保佐人本人の請求により、一定の法律行為について保佐人に代理権を与える旨の審判をすることができます。
それが被保佐人が居住している建物の売却であっても構いません。

 

民法第876条の4「家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
2 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
(第3項略)」

 

代理権付与の審判の目的である「特定の法律行為」は居住用不動産の売却を除くとはどこにも書いてありません。

 

なお本問は、本人の請求によるので本人の同意が必要ないことは第2項に明文で書いてありますが、ある意味当たり前です。

選択肢4. Aが被補助人である場合は、家庭裁判所が、Aの補助人の請求により、Aが当該住戸の区分所有権を売却することについてAの補助人の同意を得なければならない旨の審判をするためには、Aの同意が必要である。

「最も不適切」ではありません。

 

冒頭の解説で被保佐人と被補助人の違いは判断力の違いだということを言いました。判断力の違いゆえに、制限される行為の範囲が異なり、また、制限されるのは審判で定めた第13条第1項に規定する行為の一部だけです。

そして、第13条第1項第3号に「不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。」とあるので、居住用不動産の売却について補助人に同意権を付与することは可能です。

 

補助開始の審判にはそもそも本人の同意が必要であり、すると、同意を要する行為を定める審判もまた本人の同意が必要です。
本問は補助人の請求による、つまり本人以外の者によるので本人の同意が必要です。

 

民法第17条「家庭裁判所は、(略)被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第13条第1項に規定する行為の一部に限る。
2 本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
(第3項及び第4項略)」

 

なお、第17条の審判は、補助開始の審判と同時に行われるだけでなく、補助開始の審判の時に定めなかった行為について、後から新たな審判で追加する、つまり対象を拡大することも可能です。本問はその想定だと思います。

参考になった数1