管理業務主任者 過去問
令和5年度(2023年)
問40
問題文
マンションの管理費の滞納に関する次の記述のうち、民法、民事訴訟法及び区分所有法によれば、最も不適切なものはどれか。
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問題
管理業務主任者試験 令和5年度(2023年) 問40 (訂正依頼・報告はこちら)
マンションの管理費の滞納に関する次の記述のうち、民法、民事訴訟法及び区分所有法によれば、最も不適切なものはどれか。
- 管理費の滞納者が、管理組合に対し、滞納管理費の額と滞納している事実を認めた場合は、その時から、当該債権について時効の更新の効力が生じる。
- 管理費の滞納者が死亡した場合は、その相続人が、当該マンションに居住しているか否かにかかわらず、それぞれの相続分に応じて、当該滞納管理費債務を承継する。
- 管理費の滞納者に対して訴訟を提起するためには、事前に内容証明郵便による督促を行う必要がある。
- 管理費の滞納者が死亡し、その相続人全員が相続放棄した場合は、いずれの相続人も滞納管理費債務を負わない。
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この過去問の解説 (2件)
01
管理費の滞納に関する問題です。
適切
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始めます(民法152条1項)。
滞納者が、滞納管理費の額と滞納している事実を認めた場合は、権利の承認にあたり、その時から新たにその進行を始めることになります。
適切
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。
そして、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。
したがって、滞納者が死亡した場合は、相続人が、当該マンションに居住しているか否かにかかわらず、それぞれの相続分に応じて、当該滞納管理費債務を承継することとなります。
不適切
管理費の滞納者に対して訴訟を提起するために、事前に内容証明郵便による督促を行う必要があるという決まりはありません。
適切
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなします(民法939条)。
したがって、相続人全員が相続放棄した場合、初めから相続人とならなかったものとみなされ、滞納管理費債務を負いません。
基本的であり、確実に正解したい問題です。
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02
本問は、形式的には滞納管理費となっていますがこれは設例として使っているだけで、実質的には民法の債権行使にまつわる一般的な知識を問うものです。
基本的な知識ばかりなので憶えておきましょう。
「最も不適切」ではありません。
滞納者すなわち債務者が滞納の事実とその金額を認めたのですから、債務の「承認」になります。
その時点で時効の更新が生じます。
民法第152条第1項「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。」
「権利の」とありますがこれは当然、相手方(債権者)の「権利」です。債務者の立場からすれば、「あなたの権利を認めます」ではなくて「私の義務を認めます」という債務の存在を認めるのが普通です。
なお、実体法(*)の問題としてはこれだけですが、現実には、本当に「承認」があったのかは揉めることがあります。それを防ぐために一筆書かせるということがよくあります。一般に「債務承認書」などという題名が付いた文書です。
(*)実体法
大雑把に、法律上の権利義務に関する要件効果を定めた法律のことだと思ってください。
例えば民法は、私人間の権利義務の発生要件と法律効果について定めた代表的な実体法です。
これに対して、実体法で認められる権利義務を実際に実現するための手続きを定める法律が手続法です。
体表例が民事訴訟法です。
観念的には実体法上、権利義務が存在するとしても、強制的にそれを実現するためには手続法に則った手続が必要です。
本問であれば、「承認」があれば実体法(民法)上は確かに時効が更新しますが、後日揉めて訴訟になってその「承認」が実際にあったかどうかが争点になれば、手続法(民事訴訟法)上はその立証の問題が生じます。
「最も不適切」ではありません。
滞納管理費に関わらず、一般論として金銭債務は相続が生じると当然に共同相続人に法定相続割合で分割帰属します(大審院決定昭和5年12月4日以来の判例です)。この相続債務の承継には、共同相続人がどこに居住しているかは全く関係がありません。
債権者は各相続人に対して、法定相続割合に従った債務の履行を請求することができ、逆に、法定相続割合を超える債務の履行は請求できないのが原則です。
なお、当然に法定相続割合で分割されると言いつつ、相続分の指定により割合を変えることはできますし、遺産分割協議により異なる割合で分割をすることも可能です。
もっとも、この法定相続割合と異なる分割はあくまでも共同相続人間においてのみ有効であり、そんなことはあずかり知らない債権者には効力がありません。ですから、遺産分割の指定等があっても債権者は各共同相続人に対して法定相続割合に従った請求ができます。
民法第902条の2「被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。」
もっとも、ただし書にある通り、債権者の側から相続分の指定等による法定相続割合と異なる割合を認めることはできます。
ところで、管理費債務というのは相続前に生じたものか相続後に生じたものかで扱いが変わることには気を付ける必要があります。
相続前に生じた管理費債務が相続開始後に問題になるのは滞納しているからなのですが、これは、相続開始の時点で既に発生し確定している単なる金銭債務として当然に法定相続割合で分割されます。
一方、相続開始後に新たに生じる管理費債務は性質上の不可分債務として区分所有建物が共有の場合には各共有者全員に帰属します。
すると、共有者内部の関係としては、共有者各人には共有物の持分割合に応じた負担割合がありますが、債権者との関係では一つの債務として共有者各人が全額弁済する義務があります。
更に遺産分割後に生じる管理費債務については、遺産分割により当該区分所有建物の所有権を取得した相続人のみが管理費債務を負担します。
結局、
①相続開始前の滞納管理費債務→法定相続割合で分割帰属
②相続開始後遺産分割前の管理費債務→不可分債務として共同相続人全員が全額を支払う義務を負う。
③遺産分割後の管理費債務→遺産分割により区分所有建物のの所有権を取得した者が負う。
ということになります。
なお、遺産分割の効果は相続開始時にさかのぼりますが、第三者には影響しないので、相続開始後遺産分割前の管理費債務については、分割前にした弁済の効力には何の影響もありませんし、分割前に弁済していない分についての扱いも基本的に何かが変わることはありません。
民法第909条「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」
「最も不適切」です。よってこの肢が正解です。
訴訟を提起する場合、事前に何かする必要はありません(家事事件などで訴訟の条件として調停が不調に終わったことが必要とかそういう場合はありますが)。
いきなり訴えて構いません(相手に対策を取らせる時間を少しでも減らすためにいきなり訴えるというのは訴訟戦術的に珍しくありません)。
なお、内容証明郵便というのは、「その内容の文書を相手に送付した」ということを証明するだけのものです。
送る側が好き勝手に書けるのでその内容通りの法律関係が実際に存在することをまったく意味しません。
一般論としては、時効の完成猶予のための「催告」をした事実の存在を立証することを容易にするなど、相手方に対する一定の内容の通知の事実が法律要件に該当する場合にその通知の事実の存在の立証を容易にする目的で利用されます(通知の内容は意思表示かも知れませんしそれ以外かもしれません。例えば時効完成猶予のための催告は意思表示ではなく意思の通知です)。
そうでない場合はほとんどがただの「はったり」です。
特に弁護士の名前で内容証明郵便が来ると相手がビビる(かもしれない)というだけのことです。
「最も不適切」ではありません。
その通りです。
相続放棄は、相続に係る一切の権利義務を承継しないという相続人の意思表示であり、「有効である限り」被相続人に属した債務である滞納管理費債務を弁済する義務も承継しません。
民法第939条「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」
最初から相続人でなかったと「みなす(*)」と言っているので、法律的には誰が何と言おうと最初から相続人ではないわけです。
とすれば、共同相続人全員が相続を放棄すれば、誰も滞納管理費の負担を承継しません(もちろん、区分所有建物の所有権も誰も取得しません)。
(*)みなす
「みなす」は法律用語です。適当に使ってはいけません。
意味は、「本来は違う(又は違うかどうか判らない)が法律上は同じものとして扱い、かつ、反証により否定することを認めない」です。法律上の擬制と言います。
反証を認めないというのは、つまり、問答無用ということです。これは強力な効果です。「法律上の」擬制はこの強力な効果ゆえに条文上の根拠が必要です。規定のない事実上の擬制というものはありません。
条文上の根拠がないのに「みなす」と言うのは間違いです。世間では間違って使っている人が大勢いますが。
いやしくも法律を学んだなら、間違って使うのは避けましょう。「みなす」は民法の最初の方で学ぶ法律用語なので、正しく使っていないだけで、知っている人には法律素人と一発でバレます。
これに対して反証により覆すことができる場合を「推定(する)」と言います。この場合、規定があれば法律上の推定であり、なければ事実上の推定ということになります。
ところで「有効である限り」と断ったのは、相続放棄は要式行為であり、家庭裁判所への申述が必要です。それを欠く場合、そもそも相続放棄にはなりません。
民法第938条「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
時々、「放棄した」と口で言っているだけの人がいます(本気でそう思っているのか、内心はそうでないのかは場合によります)。しかし、家庭裁判所への申述がなければ相続放棄にはならないので、本当に放棄の申述をしたかどうか確認するには、家庭裁判所の相続放棄の申述書受理証明書を見せてもらう必要がありますし、逆に、それさえあれば本当に申述したことが証明できます。
とは言え、相続放棄の申述の受理は、単に適式な放棄の申述があったことを証明するだけで、相続放棄が確定的に有効であることを意味しません。相続放棄が無効になる余地はあります。
民法第921条第3項「相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。」
ただし書は、相続放棄の申述の受理により、代わって相続人となった者が相続を承認をしている場合には、法的安定性の観点からたとえ相続放棄の無効事由があったとしても相続放棄の効力を認めた方がいいという話です。
この場合、相続放棄した者が何らかの利益を受けていたなら、放棄により相続人となった者が不当利得として返還請求してケリを付けることになります。
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